不当要求に対する対応要領

事業を継続していると、お客とのトラブルやクレームが発生することは避けられません。

それが、お店に原因がある正当なクレームとして真摯に対応すべきものなのか、

あるいは・・

因縁の範疇に含まれるものなど、いわゆる「不当要求」にあたるものなのか、

判断に迷うことがあると思います。

不当要求」に対しては、毅然とした態度で、それを拒むことが必要となりますが、そもそもそれが「不当要求」なのかどうかの判断がつかなければ、「毅然と拒む」ことすらできません。

それでは、どうしたらよいのか。

以下述べることは、私が、これまでいわゆる「民暴弁護士」また事業主様の「顧問弁護士」として、多くの不当要求事案に関わった経験に基づくものです。

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1 まず、最初にすべきことは、クレームの内容を詳細に確認すること

  いわゆる5W1Hを意識して、詳細な申し出内容の確認を行います。そして、必ず記録化します。

  ●いつ(年月日、日時)

  ●どこで(どこの店舗で)

  ●誰が(対応した従業員は誰か、そして、クレームを申し出ているものの氏名・連絡先)

  ●何を(商品、サービス名。損害が発生しているという申し出であれば、何の損害か)

  ●なぜ(発生した経緯)

  ●どのように(発生の態様、そのときの状況)

  なぜ、これをまずすべきなのか。理由は次のとおりです。

  ●相手が申し出ているクレーム内容の詳細を聞かないと対処のしかたがそもそも判断できない

  ●詳細を聞かなければ、後で述べる事実確認のポイントがぼやける、不十分となる

  ●相手の申し出内容に変遷が生じないか、後で判断を可能とするため(最初に言っていたことと、その後言うことの内容が変遷しないか。事実に関する小さな点や、そのニュアンスについて)

   相手の申し出内容が、時の経過とともに変遷をする場合、矛盾が生じる場合、申し出内容の信用性について疑念が生じます。

   そのため、記録化しておくことも必要です。

  最初にクレーム内容を確認するときは、あくまでも、相手の申し出内容につき詳細を確認することにとどめ、その場で責任の所在について判断をすべきではありません。

  あいまいな判断、早急な判断をしてしまうと、相手が悪質クレーマーである場合、録音を取っていたり、言質を取られかねません。

2 次に、社内において徹底した事実関係の確認

  すでに、先方から5W1Hに沿って、詳細な申し出内容の確認をしていますから、そのような事実があったのかどうかを、社内で徹底的に事実関係の確認をします。

  事実確認の結果、以下のことを検討、判断します。

  ●事実として、申し出とおりの不手際があったのか否かを判断する。

  ●申し出とおりの不手際があったとして、申し出のような損害が常識的に生じうるものかどうかを判断する。

  ●申し出のような損害が発生しているかどうか、判断がつきかねる場合には、追加で確認すべき事項の検討をする。

   特に、通常想定される損害を大きく超える損害の発生を告げられている場合、例えば、多額の休業補償や治療費などの支払いを求められている場合、仕事内容の確認、傷病名の確認、治療状況などは、追加確認を要します。

   悪質クレーマーの場合、決まり文句のように「自分が迷惑を被っているのに、なぜそのようなことを聞くのか、自分を疑っているのか、自分は客だぞ」といったことを言いますが、追加確認は疑っているのではなく、「適切な対応の内容を検討するうえで必要である」というスタンスで必ず確認してください。

   クレームを申し出た者が、自分の申し出の内容にやましいことがなければ、かりに多少むっとすることがあったとしても、大きな反発を示して回答自体を拒むことはないはずです。

   回答を拒むような反発を示すこと自体が、申し出内容に疑念を抱かせる事情となります。

   通常想定される損害を大きく超える損害の発生を告げられている場合で、仕事内容、休業期間、治療状況などについて明確な回答を避けようとしている場合、裏付け資料として、診断書などの提出を求めます。

  相手方の申し出内容の詳細な確認、それに基づいた会社内における徹底した事実関係の確認、場合によっては再度の相手方への追加確認を経て、事実関係が把握できれば、次のステップに進みます。

3 不当要求か、通常のクレーム案件かの判断

  不当要求であるか、対応をすべき通常のクレーム案件であるか、その線引きは、次のとおりです。

  クレームや要求について、「内容」と「態様」の2点から判断します。

  「内容」についてはぱっと思いつきやすいですが、「態様」も判断基準となります。

  ●内容

   そもそも事実確認が取れない、あるいは、裏付けが乏しいクレーム→「不当要求」

   一応申し出とおりの事実関係の確認が取れたとしても、その請求内容や要求内容が、社会一般常識に照らして、また相手から提出のあった資料の内容からして、過大であったり、無理難題である場合→「不当要求」

   例えば、ささいな接客上の不手際に対して、慰謝料を何十万円も請求する(請求が過大)

   長期間の休業を余儀なくされたとして、裏付けに乏しい休業補償を過大に請求する(請求が過大かつ裏付けがない、乏しい)

   破損した装着品がビンテージもの、あるいは、1点物の思い入れが強いものであるとして、全く同じものを用意しろと請求する(実現不可能な無理難題)

  ●態様

    申し出とおりの事実確認が取れ、請求内容が相当であったとしても、請求の態様が、社会一般常識に照らして、限度を超えているクレーム→「不当要求」

    例えば、請求内容自体はおかしくなくても、毎日店舗に来て責任者への面談を求める、あるいは、執拗に店舗に電話をかけてきて業務に支障が出るような場合、SNSなどネット上への書き込みがもはや誹謗中傷と評価できるほど逸脱しているような場合

    こうなると、たとえクレームが事実に基づき、その内容自体が適正であったとしても、その態様において、社会一般常識に照らして、執拗、逸脱しており、不相当ですから、これも「不当要求」の範疇に含まれます。

4 「不当要求」と判断されるものについては、通常の正当なクレーム案件とは線引きをして、毅然とした対応

 ●毅然とした対応がなぜ必要か。

  「不当要求」を甘んじて受け入れていると、「不当要求」をすぐ受け入れる会社、お店であると判断され、新たなる「不当要求」を呼び込むことになりかねません。

  特に、相手方がいわゆる反社会的勢力の属性を持つ場合、彼らは、不当要求に対する会社の対応を良く見ています。無理難題を受け入れてしまう「カモ」であるかどうか、かぎ分ける能力に長けています。

  上記した「クレーム」か「不当要求か」の判断基準に基づき「不当要求」と判断をした場合、これを毅然と拒むことは、クレーム対応を疎かにすることとは全く異なります。

 ●毅然とした対応とは何か。

  何も「不当要求」であるからといって、ぞんざいな対応をしてください、それでもよいということを言っているわけではなく、あくまでも淡々とそのような請求には応じかねると伝えてください、ということです。

  「お客様から事情を伺い、社内調査を行ったところ、お申し出のような事実関係は確認できませんでした」

  「お客様から事情を伺い、社内調査を行ったところ、確かにお申し出とおりの事実が確認できましたが、お客様のお申し出は過大であり、お受けいたしかねます」

  後者の場合、一応申し出とおりの事実が確認できたわけですから、不手際について謝罪をしたり、再発防止に努めることを告げたりすることは一向に構いません。

  逆に、むしろ、それが適切なクレーム対応として求められると思います。

  しかしながら、社内における確認により確定できた事実関係や相手から提出のあった損害の裏付け資料から導き出される適正な損害額の賠償を提示したにもかかわらず、相手がそれを拒み、過大な請求を継続する場合、これはお断りする必要があります。

  もちろん、このような判断をするうえで、法律家の視点(特に、これまで数々の不当要求事案を扱ってきた弁護士の視点)だけではなく、事案に応じたその時々の経営者としての経営判断が必要であることは百も承知していますが、この種の不当要求、悪質クレーム案件に対する対応要領、判断規範として、参考にしていただけましたら幸いです。

四季法律事務所

弁護士  森本明宏

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