終活で作成を検討すべき書類3点セット

代表弁護士の森本明宏です。

終活」という言葉を聞き始めて久しいですが、「終活」とは自分の万が一の時に備えて、自分の心身の衰えや死と向き合い、自分の意志がよりよく反映された最期を迎えるための準備活動であると考えています。

「終活」準備としては、いろいろな事が考えられますが、弁護士ですので、法律的な側面から、事後のバタバタやトラブルを少なくするための方策について考えてみたいと思います。

これが今回、「終活で作成を検討すべき書類3点セット」というタイトルにした理由です。

まずは、結論から。

次の3つの書類を作っておけば、自分が心身の衰えを迎えたときの財産管理や自分の相続が発生したときの相続人間の争い(「相続」ならぬ「争族」)に対する心配を払拭・軽減することができます。

その3つの書類とは、

財産管理等委任契約書

任意後見契約書

遺言公正証書

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①から③は、時間の流れに沿って役立つ書類です。

例えば、人の一生を時間の流れに沿ってみれば、

体の身体的機能が衰える→認知症の進行などにより判断能力が低下する→最期を迎えて相続が発生する

という流れが、人間の一生をみたときに自然な流れといえます。

さきほどの①から③の各書類が、どこで役立つのか、あてはめてみます。

体の身体的機能が衰える(①が役立つ)→認知症の進行などにより判断能力が低下する(②が役立つ)→最期を迎えて相続が発生する(③が役立つ)

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以下、それぞれなぜ役に立つのか触れていきます。

財産管理等委任契約書

 これは、ご自身の体の身体的機能が徐々に衰え、自らが財産管理を行うことがしんどくなったり、難しくなったときに役立ちます。

 例えば、財産管理には、預貯金の引き出し、定期の解約払い戻し、施設に入所をするのであれば施設入所契約、施設入所にあたってこれまで住んでいた家を売却したり賃貸するのであれば、その売買契約や賃貸借契約の締結などなど広範囲に渡ります。

 これらを自分で行うことが肉体的にも精神的にも難しくなってきたとき、信頼できる第三者に代わって行ってもらうことが考えられます。

 これは、法律的にいえば「委任契約」を結んで、代理人の立場で財産管理を行ってもらうということです。

 通常、これらの行為を代わってやってもらう場合には、その行為ごとに、都度、委任状を交付することが必要になりますが、これも場合によっては、煩雑です。

 そこで、あらかじめ、委任すべき事項を特定して、その行為の限度で、包括的に代理権限を与える内容の契約を結ぶ、これが①の財産管理等の委任契約です。

 特定の委任事項について、包括的に代理権を付与しますので、行為の都度、委任状を作成する必要がなくなり、メリットがあります。

 この契約は、実は、ご自身のためであると同時に、相続が始まった後の相続人間の争いを防止するうえでも役に立ちます。

 弁護士がよく相談を受ける内容として、兄弟姉妹のうちの一人が親の預貯金を管理していたが、親の相続が始まったあとに調べると、親の委任があった支出なのかどうか、よく分からない、どんな権限があって親の財産を管理していたのか、ひょっとしたら、体よく預貯金を預かり、勝手に引き出して費消してしまったのではないか?というものがあります。

 もちろん、親のために費消したものでない支出に関しては、不当利得返還といって、後で他の相続人に返還しなければならなくなる可能性が出てきますが、この委任契約書を作成していれば、引き出し行為に関して正式に委任があったことの証拠となります。

任意後見契約書

 その後、時が流れ、認知症などの進行により、判断能力が低下して、自らの財産管理ができない状況になったとき、引き続き、後見人として代わって財産管理をしてもらう必要が生じます。

 ところで、「成年後見人」という言葉を聞かれた方は多いのではないかと思います。

 この任意後見契約に基づく後見人は、「任意後見人」と呼ばれますが、「成年後見人」とは区別されます。ただし、いずれも「後見人」であり、ご本人の「法定代理人」として、代理人を持ちますので、権限は同じです。

 それでは、「成年後見」制度があるのに、なぜ、「任意後見契約」を結ぶ意味があるのか、という疑問が生じます。

 以下、違いと「任意後見契約」の特有のメリットを示します。

●違い

 成年後見人→家庭裁判所が選任します。ご本人の判断能力が、財産を管理・処分ができないほどに衰えたときにはじめて、家庭裁判所に選任の申し立てを行います。

 任意後見人→自分で後見人になってほしい人を選べます。これは契約に基づく後見ですから、事前に自分で選べるわけです。そして、任意後見契約は、判断能力がしっかりしている時点であらかじめ作成します。

 つまり、任意後見契約は、自分の判断能力が衰えたときに備えて、判断能力がしっかりしているうちに契約(任意後見契約)を結んでおき、自分が判断能力の衰えを迎えたときには、自分が選んで後見人となることを引き受けてくれた人に、後見人業務をお任せする、という制度です。

  細かい点に触れると、この任意後見契約の効力を発生させるためには、後見人になることを引き受けた人(受任者)がご本人の判断能力が衰えたあとに、家庭裁判所に「任意後見監督人」選任の申し立てを行う必要があります。

  タイトルの「終活」との絡みで言いますと、後見人に誰になってほしいか、自分であらかじめ決めておくことができる「任意後見契約」は、家庭裁判所の選任に任せる「成年後見」とは違い、自分の意志をより反映させることができる面でメリットが大きいといえます。

遺言公正証書

 さらに時が流れ、自分が最期を迎えて相続が発生した場面。

 普段、弁護士として、相続トラブルについて委任を多く受けますが、遺言書があれば相続トラブルをより少なくすることができるのにな・・とつくづく感じます。

 遺言書がない場合、あらかじめ法律で決まっているのは、「法定相続分が何分の1か」、ただそれだけです。

 相続すべき財産(遺産)が、預貯金だけであればまだよいのですが、これに不動産などが含まれると、実際にどのように分けるかについて協議が難航することが多々あります。

 そんな時・・・遺言書で、「この不動産は〇〇に相続させる」と示しておけば、その不動産について、複数の相続人間で誰が取得するかについて揉める要素は減ります。

 相続人が無用のトラブルに否応なく引き込まれることを防ぐ(「争族」になることを防ぐ)とともに、自分が生前築き上げてきた財産を誰に分けてあげるか、自分の意志を相続手続きに反映させることができるのが、遺言書ということになります。

 また、遺言書を作れば、自分が残した遺言内容のとおりに具体的な手続きを行ってもらう人(「遺言執行者」といいます)も、遺言書の中で自分が選ぶことができます。

 この点も、自分の生前の想いを反映させることができるということになります。

 遺言には、大きく分けて「自筆証書遺言」と公正証書で遺言を残す「公正証書遺言」がありますが、ここでは、後者をお勧めします。

●なぜ「遺言公正証書」なのか

 お勧めするメリットが一つあります。

 公証人役場で、これら①から③の書類を一度にまとめて作ることできる!

 これに尽きます。

 遺言書については、必ずしも公正証書による必要はなく、自筆での作成も可能ではあります。

 しかし、②の任意後見契約書については、「任意後見契約に関する法律」により、公正証書で作成しなければならない、と定められています。

 そうであるならば、公証人役場に赴き、この3つの書類をあわせて公正証書で作成してしまうことが、内容の確実性、時間の無駄を省くという観点から、理にかなっているといえます。

 この点から、遺言についても公正証書で遺言を残しましょう、とお勧めするわけです。

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最後に、以上のことをまとめます。

●終活にあたり、自分が元気なうちの想いをいかに残して反映させるか。

●自分が最期を迎えたあとの親族(相続人)が相続をめぐる無用なトラブルに巻き込まれる要素を少なくしてあげる。

●それには、自分の想いについて、万が一のときに備えて事前に意志表示をしておく必要がある。

●意志表示のための書類として、3つ挙げられる

 ・財産管理等の委任契約書

 ・任意後見契約書

 ・遺言公正証書

●これら3つの書類は、一度に公証人役場で、公正証書で作成することが有用

よりよい「終活」のためにご参考になさってください。

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四季法律事務所

弁護士  森 本 明 宏

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